体の中で作られた免疫細胞たちは全員が活躍しているのだろうか?と疑問に思ったことありませんか?この記事では、生まれた免疫細胞全てが働いているわけではない!ということについてわかりやすく解説しています。これを読めば、働いている免疫細胞たちも私たちのように教育を受けてきた細胞なのか、と親近感が湧いてもっと知りたくなるでしょう!
私たちの体にとって悪い細胞っているのかな?
実は免疫細胞たちも良い細胞が活躍できるよう教育を受けているんだ!
そもそも”免疫”というものがわからない、という方はこちら↓の記事をご覧ください。
【免疫学入門】第1章 免疫(めんえき)って何?
前の章(第7章)をご覧になりたい方はこちら↓の記事をご覧ください。
【免疫学入門】第7章 多様な免疫細胞たち
目次
なぜ選ばれたT細胞だけが活躍できるの?
まず、今回の主役はT細胞です。
私たちの体の中で活躍しているT細胞は選ばれたT細胞なのです。
ここでいう、選ばれたT細胞とは
自分自身のものとそれ以外を区別できるT細胞のことです。
言い換えると、外から入ってきた物質を異物であると判断でき
自分自身の細胞や物質は異物ではないと判断できるT細胞です
なぜ選ばれる必要があるのかというと、
T細胞が自分自身の細胞を攻撃する可能性を低くするためです。
殺傷能力が高いT細胞が自分自身の細胞を異物と認識し攻撃してしまった場合
炎症が起きたり、臓器が正常に働かなくなってしまうことが起こります。
はじめに、T細胞がどこで生まれて
どこでその教育・選択を受けているのかを説明します。
T細胞は骨髄↓という場所で生まれます。
この生まれたばかりの未熟なT細胞は
次にリンパ組織の一つである胸腺という器官に入ります。
この胸腺でT細胞たちは教育を受けて選ばれることになります。
では、T細胞が大きく分けて2回のテストを受けて
選ばれていく流れを説明していきたいと思います。
自己を攻撃しないT細胞を選ぶ方法
未熟なT細胞が胸腺で教育・テストを受けて
選ばれていく流れについてです。
この未熟なT細胞というのは
前回の章で説明したTCR(T細胞受容体)やその他のT細胞特有の物質(CD4, CD8)を細胞表面に出していないT細胞のことをいいます。
この未熟なT細胞が胸腺に入ると少し成長して
それぞれが固有のTCRを持ち、増殖して仲間を増やします。
また、CD4とCD8という物質を両方出します。
この段階のT細胞は学生という感じですね。
学生になると勉強が始まり、テストを受けなければなりません。
T細胞(学生)はこれからテストを受けます。
1回目のテスト(やさしい)
1回目の試験会場は胸腺の皮質という場所です。
テストの試験管は胸腺皮質上皮細胞という細胞です。
胸腺皮質上皮細胞が
「これから正の選択を行います。あなたは抗原提示による自分の成分(MHC+自己抗原)を上手に認識することができますか?」
とT細胞(学生)に自分の成分を差し出します(提示します)。
参考
MHCとは主要組織適合性複合体というものです。細胞表面に存在し、抗原を提示する(上に乗せる)ための分子です。
このテストによる合格・不合格の審査基準は次のようになっています。
- 自己の成分に結合できない→不合格×
- 自己の成分に適度に結合して認識できる→合格○
- 自己の成分に強く結合することができる→不合格×
不合格だったT細胞(学生)は死んでしまいます。
(死ぬことを避ける方法もあるのですが、ここでは説明しません)
合格だったT細胞(学生)は自己の成分(MHC)の認識の仕方により
このように成長します。
チェックポイント
MHCは2つに分類することができます。
一つはほとんどの細胞(核を持っている細胞)に存在するMHCクラスⅠ
もう一つはマクロファージ、樹状細胞、B細胞しかもっていないMHCクラスⅡ
この2つのMHCどちらを認識できるのかで
どのように成長するのかが変わります。
- MHCクラスⅠを認識して合格→CD8だけを出す
- MHCクラスⅡを認識して合格→CD4だけを出す。
文章だとよくわからないかもしれないですね。
図でまとめたいと思います。
違うT細胞に成長するんですね。
CD4やCD8はT細胞の種類を表しているマークと覚えていただけたらと思います。
それでは
合格したT細胞(学生)は2回目のテストに進みます。
2回目のテスト(むずかしい)
2回目のテストの試験会場は胸腺の中の髄質という場所です。
試験管は胸腺髄質上皮細胞と胸腺樹状細胞です。
難しい単語ばかりかもしれませんが
胸腺の髄質にいる細胞なのね、という感じで構いません。
ここで胸腺髄質上皮細胞や胸腺樹状細胞が
「これから負の選択を行います。自分の抗原が提示されても反応しないことができますか?」
とT細胞(学生)に自己抗原を差し出します。
このテストの審査基準は次のようになっています。
- 自己抗原に結合せず我慢できた(無視できた)→合格○
- 自己抗原に結合してしまった→不合格×
この時のT細胞(学生)が試験を受けている様子はこのようなイメージ↓です。
不合格だったT細胞(学生)は死ぬという運命です。
この2回目のテストはT細胞たちにとって非常に難しいテストなので
かなりの数のT細胞が不合格となってしまうようです。
この2つのテストで合格をもらうことができたT細胞が
胸腺の外へ出ることができ、
それぞれの役割をもって(社会人になって)はたらくことができるのです。
まとめ【選ばれた免疫細胞がはたらくことができる】
まず、T細胞は骨髄で生まれて、胸腺に行きます。
そして、胸腺の皮質に行くと1回目のテスト(正の選択)を受けます。
「自分の成分によって提示された自己抗原を上手に認識できますか?」
- 結合しない・強く結合する→不合格(死にます)
- ほどよく結合して上手に認識できる→合格(さらに成長できる)
合格したT細胞は胸腺の髄質で2回目のテスト(負の選択)を受けます。
「自己抗原に反応しないことができますか?」
- 自己抗原に結合した→不合格
- 自己抗原に結合しなかった→合格
このように選択されて2回連続で合格をもらえたT細胞は
自分の抗原には反応しないため自分自身の細胞を攻撃しないでしょう(自己に対する免疫寛容)と認められ、胸腺の外へ出て働くことができます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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興味のある方はこの続き↓も読んでいただけたらと思います。
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