前の章でがんについて分かっていただけたでしょうか?では、免疫細胞たちがどのようにがんと戦っているのか知っていますか?
この記事では、手強いがん細胞と闘う方法(免疫細胞たちの戦術)について解説します。
これを読めば、今私たちの体の中にいる異常な細胞を免疫細胞がやっつけてくれているのか!?と気づくはずです!!
免疫ってなに?と思った方はこちら↓の記事をご覧になってください。
【免疫学入門】第1章 免疫(めんえき)って何?
まだ、がんについて解説している前の章を読んでいない方はこちら↓をどうぞ
第9章 がんと闘う免疫細胞たち 〜がんって何?〜
目次
がんと闘う免疫細胞の紹介
NK(ナチュラルキラー)細胞
まず、NK(ナチュラルキラー)細胞という自然免疫の細胞が活躍します。
存在割合の出典元:”NK細胞療法について” きぼうの杜クリニック
以前の章↓にもこの細胞は出てきましたね。
【免疫学入門】第5章 ウイルス感染から守る! 自然免疫細胞の活躍 編
ウイルス感染した細胞を見分けて非特異的に攻撃してくれるということを説明しました。
このようにNK細胞は細胞内で異常(DNAの異常、ウイルスの侵入)が起きている細胞を非特異的に早い段階で破壊することを得意としています。
そして、正常細胞とがん細胞を見分けることができる特有の受容体を持っています!
後ほど解説します。
ここで、実際にNK細胞ががん細胞やウイルス感染細胞と闘っている様子を見てみましょう↓
※音ありです
細胞傷害性(キラー)T細胞
もう一つの免疫細胞は細胞傷害性(キラー)T細胞です。
あれ?この名前どこかで聞いたことあるようなと思った方はすごいです!以前の章を読んでくれていたのかもしれないですね。
初めて聞いた、という方はこちら↓の記事もご覧になってみてください。
【免疫学入門】第6章 ウイルス感染から守る! T細胞の活躍 編
NK細胞と同じくキラーT細胞も細胞内で異常が起きている細胞を少し遅れて破壊するのでしたね。
遅いけれども殺傷能力は強いです!
キラーT細胞もNK細胞とは異なる受容体を持っており、細胞の情報を受け取れることができます!
こちらも後ほど解説します。
ここで、実際にキラーT細胞ががん細胞を攻撃している様子を見てみましょう↓
※音あり、英語で解説あり
他にもNKT(ナチュラルキラーT)細胞という免疫細胞も活躍します。
NKT細胞は強いのですが、強い故にいろいろな機能を持ち合わせており複雑なためここでは詳しく説明しません。興味のある方は下の参考を読んでみてください!
参考 NKT(ナチュラルキラーT)細胞
その名の通り、NK細胞とキラーT細胞の要素を持ち合わせた免疫細胞です。
特徴は次の通りです。
- がん細胞やウイルス感染した細胞を攻撃できる
- T細胞と同様にTCRという受容体を持っている
- ヘルパーT細胞が出す特有のサイトカインを放出できる
今回は、NK細胞とキラーT細胞が分かっていれば大丈夫です!
がんと闘うための免疫細胞の作戦
まず、NK細胞や樹状細胞(NKT細胞など)が正常な細胞以外に異常な細胞がいないか体の中を巡回しています。
では、巡回している中でどのように正常なものと異常なものを見分けているのでしょうか?
体の中の細胞の細胞表面には「私はこのような細胞です」という名札の役割を果たす
MHCクラスⅠという分子を持っています。
これをNK細胞は細胞表面にあるKIR(Killer cell Immunoglobulin-like Receptor)という受容体で認識します。
基本的にNK細胞はMHCクラスⅠを持っていない細胞を「異常な細胞」とみなして攻撃しようとします。
細胞がMHCクラスⅠを持っている場合は、その正常な細胞のMHCクラスⅠがKIRに結合して、
攻撃しないようにシグナルを送ります。
参考 KIRは大きく分けて2種類ある
KIRには抑制型と活性型の2種類があります。
それぞれ次のような機能があります。
- 抑制型KIRにMHCクラスⅠが結合した場合→抑制性シグナルが入り、NK細胞は攻撃しなくなる
- 活性型KIRにMHCクラスⅠが結合した場合→活性性シグナルが入り、NK細胞は活性化する
少しわかりづらいかもしれないので、イメージ図にまとめるとこんな感じです↓
そして、NK細胞がその細胞をがん細胞であると判断したら
TNF(腫瘍壊死因子)というものを放出して異常な細胞を攻撃します。
攻撃を受けたがん細胞は死んでしまいます。
これをイメージ図にまとめるとこんな感じです↓
TNFについてもう少し知りたいという方は参考も読んでみてください。
参考
TNFはサイトカインという細胞に刺激を与えることができる物質の1つです。
TNFががんのような異常な細胞の受容体に結合すると、自己死(アポトーシス)という現象が起きて死にます。
このNK細胞の攻撃よりも遅れてキラーT細胞がやってきます。
キラーT細胞もNK細胞と同様にTCR(T cell receptor)という受容体で
その細胞がどんな細胞なのかということを判断します。
MHCクラスⅠ分子上にのっている抗原が「正常なものとは違う」とTCRで判断した場合、細胞ごと破壊しようと攻撃します。
イメージ図でまとめるとこんな感じです↓
キラーT細胞の頭から出ているのは、TCR(紫色)とCD8(水色)というキラーT細胞だけがもっている分子です。
このようにNK細胞とキラーT細胞が闘ってくれます。
しかしながら、がん細胞は免疫細胞の攻撃をうまく避けることができるのです。
がん細胞は強い!攻撃を避ける方法
免疫細胞ががん細胞を見分ける方法は以下の通りです。
- NK細胞→MHCクラスⅠを細胞表面に出していない
- キラーT細胞→MHCクラスⅠの上にのっている自己抗原が異常である
特に多く存在していて、かつ強力な攻撃を仕掛けてくるキラーT細胞の戦略をがん細胞は見抜いているのです。
なぜなら、がん細胞はMHCクラスⅠをできるだけ隠すという攻撃を受けづらい体勢をとっているからです。
がん細胞がこのようにMHC分子を出していない場合、
キラーT細胞は正常か異常かを見分けることができないのです。
そして、攻撃できないという事態になります!
また、免疫細胞が攻撃してこないように免疫細胞の活性を抑制する物質を放出します。
それにしても強い…。
がん細胞が攻撃を避ける方法をまとめるとこんな感じです↓
他にもがん細胞は攻撃を受けないようにするための術を持っています。
それは次の章で説明したいと思います。
次回解説するね!
まとめ【がん細胞とたたかう免疫細胞のはたらき】
まず、がん細胞と闘ってくれる主な細胞は次の通りです。
がんと闘う免疫細胞
- NK(ナチュラルキラー)細胞
- 細胞傷害性(キラー)T細胞
- NKT細胞
そして次のように闘います。
<NK細胞の攻撃(早い反応)>
- 細胞にMHCクラスⅠ分子がないことから、がん細胞であると判断
- TNF(腫瘍壊死因子)を放出
- TNFを受けたがん細胞が自ら死んでいく
<キラーT細胞の攻撃(遅い反応)>
- 細胞上のMHCクラスⅠ分子の上に乗っている抗原からがん細胞であると判断
- キラーT細胞が活性化する
- 直接がん細胞ごと破壊する
しかし、がん細胞はこのような免疫細胞の攻撃を避けることができます。
- 特にキラーT細胞の攻撃を避けるため、MHCクラスⅠを隠す
- サイトカインという物質を出して、免疫細胞の活性を抑える
少しでもがん細胞と免疫細胞について分かっていただけたでしょうか?
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次回は、がん免疫療法について解説します!!
では、今回も最後にオススメの本を紹介しますので
興味のある方は最後まで読んでいただけたら嬉しいです!
がんに関するオススメの本
私はがんに関する新書なども読むのですが、
今回はミステリー小説「がん消滅の罠 完全寛解の謎」を紹介します。
これは非常に面白かったミステリー小説です。
文章の中に専門用語が入っていて少し難しく感じますが、スラスラ読めると思います。
最後にはがんが消えた謎はそういうことか!?と驚くのではないかと思います。
ぜひ、読んでみてください!
一番最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!!