がんをやっつけるための薬や治療法を知っていますか?
この記事では、免疫の力を借りてがんと闘うための治療法について解説します。2018年にノーベル生理学・医学賞で話題になった治療薬(抗PD-1, 抗PD-L1)も解説します!
これを読めば、今どんな治療法が注目されているのかわかるようになるでしょう!
その前にがんについて知りたい・前の記事を読んでないという方は
こちら↓の記事をご覧ください!
第9章 がんと闘う免疫細胞たち 〜がんって何?〜
第10章 がんと闘う免疫細胞たち 〜免疫細胞たちの活躍〜
目次
がんを治療するための方法って?
がんを治療するということは、どういうことでしょう?
その治すということは
- 悪性腫瘍(異常で悪性化した細胞のかたまり)を取り除いたり、小さくする
- (血液に含まれる)悪性の細胞を減少させる、増えないようにする
ということです。
このように患者さんの体からがんというものを可能な限り消すために、いろんな治療方法が開発されてきました。
がんの告知を受けた方に示される治療方法は、基本的に「手術療法」「化学(薬物)療法」「放射線療法」の3種類があり、これを三大療法と呼んでいます。
出典元:がん治療〜がんの三大療法|がんを学ぶ ファイザー
今でもこれらの治療法が患者さんに対して行われています。
しかしながら、まだまだ難治性のがんもあり
副作用がより少なく、完全に回復できるような治療法が求められています。
そこで研究が進んだことにより
「免疫」が再注目され、免疫療法というものが新しい治療法として取り上げられるようになってきています。
今回はこの免疫療法というものに注目して
解説していきたいと思います。
免疫療法って?
では一体、免疫療法とはなんでしょう?
その名の通り
元々免疫細胞がもっている機能を発揮させて、免疫細胞にがん細胞を攻撃させて治す方法です。
イメージとしてはこの下の図↓のような感じです
前回の記事↓
第10章 がんと闘う免疫細胞たち 〜免疫細胞たちの活躍〜
で書いたようにがん細胞に対して強い攻撃ができるのは
キラーT細胞です。
しかし、キラーT細胞はがん細胞に対して本来の力を発揮して攻撃することができない
ことが多いのです。
なぜなら、がん細胞はキラーT細胞の攻撃を抑える術を持っているからです!
それでは、
- がん細胞はどのようにしてキラーT細胞の攻撃をよけているのか?
- キラーT細胞に本来の力を発揮させるための免疫療法とは?
ということについて引き続き解説していきます。
英語で学びたいという方は
私が大学院の授業でプレゼンしたパワポスライド↓を見てみてください。
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がん細胞が攻撃をよける方法〜免疫チェックポイント分子〜
がん細胞は免疫細胞の攻撃をよける方法をいくつも持っています。
そのうちの一つが
PD-L1という分子を細胞表面に発現させることです。
キラーT細胞が持つPD-1
まず、キラーT細胞はPD-1という免疫チェックポイント分子を持っています。
免疫チェックポイント分子
免疫細胞の細胞表面に出ている分子です。
免疫細胞はこの分子を使って、他の細胞(相手)をチェックしてどのように働きかけるか決めています。
自己の細胞であるのか、非自己の(異常な)細胞であるのかをチェックするとも言われています。
なぜこのような免疫チェックポイント分子があるのかというと、
自分の正常な細胞を免疫細胞が攻撃しないようにするためです。
免疫細胞が正常な細胞を攻撃してしまうと
炎症が起きてしまい体によくないということは想像できるでしょう。
キラーT細胞は活性化したときにこのPD-1を細胞表面に出します。
PD-1を使って次のようにチェックして働いています。
- 相手の細胞が自己(正常)である場合→攻撃をしない
- 相手の細胞が非自己(異常)である場合→攻撃を開始する
PD-1とキラーT細胞のはたらきを図にまとめるとこんな↓感じです。
がん細胞が持つPD-L1
PD-L1はPD-1と結合することができる分子です。
この分子をがん細胞は細胞表面に出していることが多いのです。
なぜなら、キラーT細胞の攻撃をよけるためです。
がん細胞がこのPD-L1を発現している場合、
PD-L1がキラーT細胞のPD-1と結合し
がん細胞が自己(正常)の細胞であると勘違いしてしましまうのです。
このがん細胞とPD-L1のはたらきをまとめるとこんな↓感じです
いや、それにしてもがん細胞は手強いですね。
免疫細胞を助ける方法ないんですか?
免疫細胞を助ける〜免疫チェックポイント阻害剤〜
キラーT細胞のがん細胞に対する攻撃を強めるために
免疫チェックポイント阻害剤というものが開発されました。
その名の通り、免疫チェックポイント阻害剤は
免疫チェックポイント分子を覆うことで、がん細胞がもっている分子が結合できないようにします。
PD-1に結合する分子(阻害剤)は抗PD-1抗体といいます。
一方、PD-L1に結合する分子(阻害剤)は抗PD-L1抗体といいます。
この免疫チェックポイント阻害剤のはたらきをまとめるとこんな↓感じです。
これと同様に抗PD-L1抗体はPD-L1に結合して
キラーT細胞のPD-1と結合できなくなります。
このように、免疫チェックポイント阻害剤で免疫細胞の攻撃力をあげることができるのです。
そして、力を発揮できるようになった免疫細胞の力を借りてがんをやっつけることができます!
ここで、抗PD-1抗体を使ったら、
PD-1が機能しなくなるのでは?
正常な細胞も攻撃してしまうのでは?と思われたかもしれません。
しかし、PD-1はがん細胞や異常な細胞がある場所で
キラーT細胞が他の細胞によって活性化されたときに表面に出てきます。
そのため、正常細胞を攻撃する可能性が低いのです。
正常細胞を攻撃する可能性が低いということは
治療を受けた後に起こる副作用が少ないということですね。
副作用というのは患者さんの体に有害であることが多いので
これが少ないというのはこの阻害薬の強みです。
(全ての患者さんで副作用が少ないというわけではありません)
他にも免疫チェックポイント阻害剤は存在しますが
ここでは紹介しません。
気になった方は「現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病」を読んでみるといいかもしれません。
元々持っている力を発揮できる免疫細胞は強いですね!
まとめ【がん治療の免疫療法について】
まず、がんの治療法は新しいものを加えると4つあります。
4つのがん治療法
- 手術療法
- 化学療法
- 放射線療法
- 免疫療法
今回は免疫療法を取り上げました。
免疫療法で重要なのが免疫チェックポイント分子です。
活性化されたキラーT細胞はPD-1という免疫チェックポイント分子を出します。
これによって、正常な細胞が異常な細胞が見分けることができます。
一方、がん細胞はキラーT細胞の攻撃をよけるために
PD-1に結合するPD-L1という分子を出しています。
よって、次のようなことが起こります。
- がん細胞がPD-L1を出していない→キラーT細胞が攻撃を開始する
- がん細胞がPD-L1を出している→PD-1に結合して攻撃しないように信号を送る→キラーT細胞は攻撃しない
そこで、このようにキラーT細胞ががん細胞に攻撃を邪魔されないように
免疫チェックポイント阻害剤というものを使われます。
これは免疫チェックポイント分子に結合して
がん細胞が免疫細胞の攻撃をよけることを防ぎます。
今回は抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体という免疫チェックポイント阻害剤を紹介しました。
いかがでしたか?少しでもわかっていただけたでしょうか?
ここでは紹介しきれなかったもの治療薬もあります。
また、どんながんに効くのかなどを調べてみるといいですね。
がん患者さんのためのアプリや情報をまとめた記事をこちら↓のnoteに書いています。
がん患者さんをサポートするアプリの紹介
余談ですが
この先、新しい免疫療法・免疫チェックポイント阻害剤が開発されると私は信じています。
私ががんに関する研究をしようと決意した理由はこちら↓のnoteに書いています。
がんの研究をしようと決めた理由
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
がんに関するオススメの本を知りたい方は
最後まで読んでいただけたらと思います。
がんに関するオススメの本
今回はがんの治療薬について詳しく書いてある、そして読みやすいという本を紹介します。
この記事で紹介した免疫チェックポイント阻害剤で
がん治療薬として使われている「オプジーボ」に特化した本「今こそ知りたい! がん治療薬オプジーボ」です。
実際、この治療薬ってどうなの?ということが包み隠さず書いてあるという印象を受けました。
他にもがんのこと、がんの情報の選び方など書いてあり、勉強になると思います。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!